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届ける側も推す側も、そこを前提にすると付き合い方が楽になります。
少し前まで、私はあるアイドルグループを推していて、ほぼ毎週のようにイベントに足を運んでいました。
あるきっかけで別のグループを見つけ、気づけばそちらにすっかりハマっていました。それと入れ替わるように、前のグループには全然行かなくなりました。
不思議なのは、前のグループを嫌いになったわけではないことです。ただ、新しいグループのイベントに行けば、その日は前のグループに行けません。理由は気持ちではなく、時間が足りないという単純なものでした。
可処分時間とは、1日24時間から睡眠、仕事、通勤、家事など、生活に欠かせない時間を除いた、自分で使い道を決められる時間のことです。
問題は、この時間が誰にとっても有限なことです。ライブやイベント、配信、ゲーム、動画サービス、SNSは、どれも同じ限られた時間を取り合っています。
INSIGHT
「最大の競合は睡眠である」
Netflixの共同創業者でCEO(当時)のリード・ヘイスティングス氏が2017年に語った象徴的な言葉です。同じ動画配信業界のライバルよりも、ユーザーの時間そのものが競争相手になっているという見方です。
この構図は、アイドルの世界にもそのまま当てはまります。推しの現場は、別のグループだけでなく、ゲームやドラマ、友人との予定とも競っています。
お金も同じで、使える額は決まっています。チケット、物販、遠征の費用まで考えると、推しの現場は時間とお金の両方を使う選択です。この記事では、そのうち時間を軸に考えてみます。
グループ、運営、事務所の側から見ると、競っている相手は他のアイドルだけではありません。ファンのその日の夜や週末を使えるものは、すべて競合になります。
見方のポイントは次の4つです。
同じ時間帯、同じ気分を埋めるものは、業界が違っても競合です。映画、配信、他のカルチャーすべてが同じ天秤に乗っています。
通知や限定特典で一時的に時間を取っても、通った後に疲れや後悔が残れば、長くは続きません。納得感のある体験であることが不可欠です。
今回の私のように、嫌いにならないまま足が遠のくファンは少なくありません。戻りたくなった時に入りやすい場所を残しておくことが、長期的な強みになります。
ファンには他の趣味も生活もあります。限られた時間の中で「ここに来てよかった」と思ってもらえる体験を、一回ごとに積み上げるほうが現実的です。
ファンの側から見ると、何かに時間を使うことは、別の何かに使えたはずの時間を手放すことでもあります。経済学ではこれを機会費用と呼びます。新しいグループに行った日は、前のグループに行けた日でもあった、というだけの話です。
これは時間だけの話ではありません。お金も限られているので、同じ機会費用がチケット代や遠征費にも働いています。
そう考えると、罪悪感は少し軽くなります。持っておきたい見方は次の4つです。
行かなくなったのは気持ちが冷めたからではなく、時間が足りないからだと整理できます。
時間の量よりも、行った後に満足したか、疲れや後悔が残ったかを基準にします。
習慣や周りの流れに流されず、いま自分が本当に求めている時間かを確かめます。
気持ちや関心の移り変わりは自然なことです。時間を経て、ふとまた戻ってくることも珍しくありません。
可処分時間の奪い合いは、届ける側にも推す側にも避けられない前提です。違いは、それを「奪う・奪われる」と見るか、「選ぶ・選ばれる」と見るかにあります。
届ける側は、一回ごとの体験で選ばれ続けることを目指し、離れた人を責めずに戻れる余地を残します。推す側は、時間の使い道を自分で選び直してよいと考え、行かなくなったことに必要以上の罪悪感を持たないようにします。
毎週通っていた日々が楽しかったことは、今も変わりません。そのうえで、今は別のグループに夢中になっています。タイミングを見つけて、また会いに行きます。